見て歩き:金田一好平のアートルポ



produce by 亥辰舎
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金田一好平のアートルポ/第1歩

●パンクのエネルギーって、これなんだ!

展覧会名:石塚桜子「ポートレート・ビュー」
会場:ギャラリーアートもりもと 
会期:2010年1月18日〜1月30日

 1月22日金曜日の夕刻、案内状が届いていたことを思い出して寄ってみる。作家の名前に覚えはなかった。
 はいってびっくり。とにかくもの凄いパワーを持った作品群に気圧される。しかも、そのパワーが独特の質感とベクトルを持つ。負の力というか、マイナスオーラというべきか……。特に、深紅の画面を何重にもニスで塗り固め、まるでガラス絵のようになった作品や、黒いベールを被ったような人物像が、自分の奥底にある原初的な感情にシンクロして、心がちくちくする。おもわず、「なにがそんなに悲しいの?」と、本人に訊いてみたりする。「私たちが思春期に持っていたはずのいろんな想いやエネルギーを、彼女は今でも忘れずに持っているのよね。」とは、もりもとの佐々井さんの評。う〜ん。知る人ぞ知る過去を持つひとの評だけに、説得力があります。
 石塚さんの経歴をみると、’75年香川県生まれ。東京造形大卒。佐藤美術館の第7期奨学生だし、もりもとでも個展開催の実績があるから、作品は観ているはずだけれども、不覚にもノーチェックでした。話をしているうちに、造形大時代パンクバンドでベースを弾いていたことに及び、「そっか、パンクのエネルギーって、これなんだ!」と、私はへんなところで納得してしまう。キャンバスを担いでの海外修業も計画しているらしいけれども、私としては、ぜひエレキベースも持って行ってほしいと願うのでした。


石塚桜子会場(写真提供・ギャラリーアートもりもと)

パンク以外で納得したことがもうひとつ。造形大時代に、阿方稔さんに教わっていること。阿方さんは、長年造形大で教鞭をとっておられました。白日会という日展系美術団体の大御所。




●新宿高島屋チョイスは一味ちがう

展覧会名:波會vol.3
会場:新宿高島屋
会期:2010年1月27日〜2月2日

 1月27日、亥辰舎の江川さんと、このページの打ち合わせのため新宿駅南口で待ち合わせ。ついでに二人で新宿高島屋へ寄ってみる。ちょうど波會vol.3の初日でした。この展覧会は、東京芸術大学デザイン科で中島千波さんの薫陶を受けた作家を新宿高島屋が集めたものだけれども、ほかにも趣旨の似た別所の展覧会は多いので、注意が必要。メンバーは阿部穣、井上恵子、芹田紀恵、冨田典姫、永井夏夕。毎回、若干のメンバー入れ換えはあるらしい。この会場で過去開催された展覧会のラインと今回の芸大千波門下のメンバーとを合わせて考えてみると、いわば新宿高島屋の傾向とか、好みがすこし見えてくる。このことはとても重要なことで、「どこにいってもおんなじ作家ばかり」の状態が当たり前だった数年前とくらべると、格段に企画側の意識が向上しているといえる。
 会場で永井夏夕さんに会えた。永井さんの作品は画面に占める空の広さで、すぐにそれとわかる。本人も話してくれたけれど、今回の作品は画面中の構造物とか山とかが少なくなった。これは、私が初めて永井さんの作品を観た頃(10年くらい前?)に戻りつつあるのかと思う。私としては、こちらのバランスのほうが好き。ほかには、井上恵子さんの手袋が、ほっこりとしているけれど存在感があって、気に入りました。


波會vol.3会場。右側が井上恵子、正面は冨田典姫



 会場にいた永井夏夕さん。

 お会いするのは何年振りだろう?ドイツに留学していたそうで、向こうの気候やアートの好みの違いなどの話をしばし。ドイツの空は、永井さんの描く空とはかなり違うらしい。「わざわざ初日にありがとう」とおっしゃっていただきましたが、実のところは冒頭に書いたとおり。スミマセン。



●受賞者の今後の活動に注目します

展覧会名:第45回昭和会展
会場:日動画廊
会期:2010年1月29日〜2月8日

 昭和会展というのは、日動画廊主催の、絵画・彫刻を対象としたコンクール展。あちこちの企業が美術から撤退している今となっては、貴重な存在。出品に年齢制限があり、現在は応募時点で絵画35歳以下、彫刻で40歳以下となっている。私見(ぜんぶそうですが)だけれども、古いことはもちろん知らないけれど、少なくともここ20年くらい、あまり流行りに左右されないというか、もてはやされ系の作家は受賞していないように思える。たとえば、このところ何年もきれいな写実作品を描く作家ばかりがあちこちでクローズアップされているけれど、昭和会の最高賞・昭和会賞受賞者は、記録をみてみると41回の小木曽誠さんくらいかな?日動火災賞だと、石黒賢一郎(34回)、山本雄三(37回)さんの受賞がみえます。いわゆるコンテンポラリー系も、そうそう幅を利かせているわけでもありません。
 今回昭和会賞を受賞した仁戸田典子(にえだ・のりこ)さんは‘86年佐賀県生まれで、佐賀大学在学中。小木曽さんの教え子だそうだけれど、作風は全く違います。小木曽さんはそのとおり白日会的(実際に白日会会員)だけれども、彼女は二紀会的(無所属だから早とちりしないでね)といえば判りやすいか?細かい描き込みで幻想世界を表現しているところが遠藤彰子さんっぽい。パワーが好きな人は遠藤さんの方が好きだろうけれど、仁戸田さんの収まり感が好きな人もいるでしょう。きけば、いままで東京での発表はグループ展2回だけ。ほんとに、まだまだこれからです。いろいろ難しいと思うけれども、できれば銀座で個展が毎年見られるように頑張ってほしいものです。それによって、どんどん作品が磨かれますから。もちろん、彼女に限ったことではないですよ。



 レセプションでの審査所感で、審査員の入江観さんが、「物質感をどう捉えるかが、最近の作家の問題」という趣旨の話をされていました。ここでこんな話もなんですが、ネットは便利ですけれど、やっぱり作家はもっと実体験を増やさないといけないんだろうな。(写真提供:日動画廊)



仁戸田典子「十をめぐる旅」油彩50S 昭和会賞(写真提供:日動画廊)


白石恵理「pulsation」FRP,145×40×60 優秀賞(写真提供:日動画廊)


角谷心平「丘の上の透明な光のイメージ」ミクストメディア50S 松村謙三賞
(写真提供:日動画廊)


砂川啓介「Re,ER」油彩50s 東京海上日動賞(写真提供:日動画廊)


今年の受賞作品をざっと見渡すと、それぞれ傾向が違うので、バランスに配慮したのかなと思います。


今週の標語:「酒の上の約束は果たそう」

もう何年前だろう?当時の同僚と呑みながら、「酒の上での約束ってよくいうけれど、それでも、いや、だからこそ守る。それがホントの酒呑みだぁ〜。」と気勢をあげたことがありました。そんなことを思い出しながらこの原稿を書いています。ああ。

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  • 第13歩
    ●「相撲は魅せなきゃダメでしょ」木村浩之の相撲展
    ●「ミクロの世界にマクロを見る」末永敏明作品展
    ●「みんなおしゃれになりました」渺渺展

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    ●「みんなが自分の仕事をすることの大切さ」東日本大震災チャリティー企画
    ●「スーパーマンは存在する」岩波昭彦展

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    ●「明るいだけが写実じゃない」石田淳一油絵展
    ●「ぼよよ〜ん」青木千絵展

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    ●「もっと弾けろ!!」渺渺展
    ●「これからの楽しみ」ガロン第一回展

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    ●「誰かが気にする仕事」グラマラス
    ●「女性像だけじゃない」山本雄三展
    ●「いつまでもアンテナを磨いておいてね」後出恵個展

    第7歩
    ●「彫刻はライティングが命!」大森暁生展
    ●「老舗の画廊にまかせるの?」小滝雅道展

    第6歩
    ●日本画春の展覧会シーズン
    ●「やっぱ京都でしょ?」西嶋豊彦個展

    第5歩
    ●「住宅街連想あそび」円座
    ●「海が好き!」内山徹日本画展
    ●「寂しがり屋の猫」能島千晴展

    第4歩
    ●「屏風は平面じゃない?」岡村桂三郎展
    ●「母は強し!」藤井美加子日本画展

    第3歩
    ●「まだまだ変わってゆくのかな?」寺久保文宣油絵展
    ●「やったもん勝ち」MetaU

    第2歩
    ●「大人になると落ち着くんだな」菱山裕子展
    ●「カワイイ!って、俺がいってもな……」手の上の渺渺展

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    ●「パンクのエネルギーって、これなんだ!」石塚桜子 ポートレート・ビュー
    ●「新宿高島屋チョイスは一味ちがう」波高會
    ●「受賞者の今後の活動に注目します」第45回昭和会展

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