見て歩き:金田一好平のアートルポ



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金田一好平のアートルポ/第8歩

●誰かが気にする仕事

展覧会名:グラマラス
会場:日本橋高島屋
会期:2010年5月19日〜5月25日

 出品者の名前で長くなっちゃうけれど、我慢してください。阿部清子、池田真弓、猪熊佳子、岩永てるみ、岡村まゆみ、神彌佐子、新恵美佐子、菅原さちよ、武部雅子、田宮話子、能島浜江、平子真理、平野美加、藤井美加子、フジイフランソワ、松生歩、松谷千夏子、宮いつき、室井佳世、山口暁子、山崎佳代、山田りえ、依田万実。この展覧会のきっかけは、昨年(だったっけ?)アートもりもとで開催された同名のグループ展。中心メンバーの藤井さんと室井さん、もりもとの佐々井さんとで「もっと大規模にやろうよ」という話になり、企画に佐藤美術館の立島さんを引っ張り込んだということです。さらに、今回会場となった島屋との調整やら売り込みやらで最終的にこのメンバーになったとのことですが、どうです?この顔ぶれ。私にとっては、おなじみの名前と、懐かしい名前がいっぱいですが、やっぱり顔を知らない作家もいます。
 いくら作家活動が長くても、全ての作家と友達にはなれないでしょう。また、いくら業界に長くいたって同じだし、島屋といえどもそうでしょう。それが良かったのだと思います。たぶん、初めの言いだしっぺメンバーだけでは、仲良しの多い偏った人選になったと思いますし、学芸員である立島さんだけのチョイスでも実験的、尖鋭的になりすぎてこのメンバーにはならなかったように思います。そして、ちゃんと島屋さんの営業的、体面的な人選もはまっています。出品者の誰かが話していましたが、「名前はもちろん、作品も知っていて、意識はしていても、付き合いがなかった作家も多い」。大切なのは、相手を意識したところでしょう。そんな組み合わせがあちこちに存在したのだと思います。「あの人と一緒に並べるんだから……」。意地悪な言い方をすれば、「女の意地」でしょうか?ほとんどの作品が、緊張感のある良い作品でした。
 個人的な観点で作品をふたつ。まず、池田さん。会場に入って右手の壁面から見始めたら、いきなりです。「あれ?人物描いてるよ」。ここ数年、螺旋階段だったし、たしか昨年の秋の小品展では花を描いていました。思わず「どうしたの?」と、声に出して言っちゃいました。本人いわく、「最近、何を描きたいのか解らなくなっていたから、昔から好きだった人物を描いてみたの」。勝手な想像ですが、今回のメンバーを考えて、「同じことやっていちゃいけない」と思ったんだろうなぁ。これで、この展覧会のテンションが一気に上がりました。
 平野さんの作品には、彼女の「らしさ」が感じられる「空気感」があります。彼女を知ったのは、もう20年近く昔で、日春展とか、フタバ画廊とか、あかね画廊・竜渕の会。「何もないところに何かを感じさせる絵」って、お解りいただけるでしょうか?リズムとか、間とかの問題だと思うのですが、気配、空気感といった、目に見えない存在を感じさせる作品が印象的でした。ところが、ここ10年くらい、どうも良い作品がありませんでした。結婚、出産が制作に与える影響は、軽々しく論ずる事のできないことですが、彼女を考える時、どうしても頭に浮かびます。ところが今回の作品は、平野流の空気感が戻りつつあるように感じさせてくれるものでした。これも、メンバー同士による良いライバル意識、「女の意地」のように思うのです。

 この展覧会が話題になり始めた頃、複数の人から、「○○はどうしてメンバーに入っていないのか?」という意味の話を振られました。こんなにたくさんのメンバーがいるのに、自分が贔屓にしている作家が入っていないのは何故なんだ?という訳です。気持ちは解りますが、重要なことは「誰かが気にする仕事をしていること」で、今回名前がなかった作家だって、別のひとが気にしていれば同じことなのです。チャンネルが違ったと言えばいいのかな?「お笑い番組を観たのだけれど、贔屓のタレントが出ていない。そしたら裏番組でクイズの回答者をやっていた……」。また仮に、その人(誰でも)が満足できるメンバーを独りでチョイスしたならば、これほどの緊張感が存在しただろうかと考えます。平子さんはあの絵を出品しただろうか?神さんの絵はあんなに元気だった(本人はもっと元気だけれど)だろうか?能島さんはあんなに桜の花をたくさん描いただろうか?あくまでもこの展覧会の面白さは、チョイスした人の立場がそれぞれ違ったところにミソがあったのだと思っています。ひょっとしたら、このアイディアはイケるかもしれません。「作家が○○、ギャラリーが××、学芸員は△△で、会場は三越かな?……」。このような組み合わせを考えてみるだけで楽しいものです。「あれとこれの組み合わせだとたぶん出てくる作家の名前は……」。いやぁ、良い酒の肴ですね!


ギャラリートーク風景。司会の立島さんは、打ち合わせの時に「ぼったくりバーにつかまって虐められている気分」だったらしい。因みに、私はレセプションの日「魔女の集会に出掛ける気分」でした。辞書によるとglamourには、魔力、魔術という意味もあるそうですから、やっぱり……。文句は講談社に言ってね!



この展覧会は好評につき、今秋新宿高島屋に巡回と決定したそうです。(今度の呑み会はホントに歌舞伎町?)






●女性像だけじゃない

展覧会名:山本雄三展
会場:日本橋三越
会期:2010年5月26日〜6月1日

このコーナーに私の似顔絵を描いてくれた山本君の新作展です。モノトーンが目立ちますが、最近意識的に色彩を削って、描きたいものを絞るというか、本質を見つめなおしたいという話をしていました。高校時代はピッチャーだったという山本君。なかなか直球勝負です。
 今回だけではないのですが、個展に「子供ネタ」が多いのが彼の特徴です。意外に思う方も多いかもしれませんが、彼の場合独立展出品作や美術誌で紹介される作品は女性像が多いのですが、個展になると母子像や子供の作品が出てきます。今回は特にリクエストが多かったということです。いままで業界の一般常識では、「子供をモデルにすると売りにくい」ということがありました。もちろん例外はあって、岸田劉生の礼子像はともかく、今でも活躍している作家では、大津英敏さんや、智内兄助さんは子供ネタで有名になった作家です。もっとも彼らの作品の魅力はそれぞれ違いますし、山本さんの作品の魅力はまったく別種のものです。では、どこに魅力があるのでしょう?
 安直に考えると、確かに「他人の子供の絵を飾ってどうする?」という疑問はありますが、子供の姿というものは、それだけで周りを朗らかにしてくれる効果があります。もちろん自分の子供なら一番よいのですが、我が家の様に中学3年にもなると、体はでかいし、憎まれ口も得意です。その点、小さな子供はどこの子供であれ、思わず微笑みかけたくなります。優しくならないといけないと思っちゃうのでしょうか?まさしく、「優しくなければ生きている資格がない」ですね。話がそれましたが、そのように、優しさが欲しい時、ふと、彼の作品があればいいなと思う人が多いのかもしれません。
 残念ながら私は彼の子供と会ったことはありませんが、想像では作品中の子供とはちょっと違うと思います。個性を中庸(?)にしておかないと、「他人の子供…」と思われかねないからです。普通、個性に乏しいモデルの作品は観ていてもピンとこないものですが、リクエストが多いということは、充分魅力的に仕上がっている証拠です。そのあたりが、今回の彼のテーマである本質を見極めるということと、深く関係しているといえるかもしれません。


女性像は、もちろんたくさん出品されています。これはメインの作品。




どうしても、ガラス(またはアクリル)が入っていると、写り込みが避けられません。これは会場で鑑賞する際にも気になるところです。女性像の両側は、花の作品。






●いつまでもアンテナを磨いておいてね

展覧会名:後出 恵 個展「o-rai」
会場:京橋 GALLERY b.TOKYO
会期:2010年6月7日〜6月12日

 最近、京橋の警察博物館の横を入ったあたりの隣り合ったいくつかの画廊が、お気に入りです。ギャラリー羅針盤、ギャラリー青樺、そしてギャラリーb.tokyo。理由として、この辺は画廊のスタイルもありますが、初個展や、せいぜい2回目といった作家が多いこと。ここ数年、私自身が以前から知っている作家の展覧会を中心に観て廻るのに一生懸命で、新しい作家を探していないことに気がつき、反省している次第です。もうひとつ、画廊が隣同士で張り合っている感があります。「あっちがああなら、こっちだって!」みたいな感じです。先ごろまでこのひとまとまりの中心にあって、不幸な終わり方になってしまったギャラリー山口を悼むかのような熱の入れ方というところでしょうか?

 さて、そんななかにあって今回見つけた作家はこのひと。後出(うしろで)さん、と読むのだそうです。生活空間に屋外や道路が混ざり込んで不思議な空間を作っていますが、じっと観ていると、彼女は「居場所」を探しているんじゃないかと思いました。ほのぼのとした作風ですが、なかには妙に寂しさを感じさせる作品もあります。美大で深夜まで作業を続けての帰り道とか、自分が寝ているベッドの周りを流れてゆく様々な思い出や事象。「これからどうなっちゃうんだろう」とか、「私は何をしたいんだろう」とか、二十歳くらいに誰しもが悩んだのであろう事柄が観て取れます。感傷的にすぎるかもしれませんが、「彼女が本気で悩んだ末に現在があって、しかも未だに居場所を探してこの作品を描いたのだ。単に『カワイイから』ではないのだ」(バカボンパパ風?)と、勝手読みをしました。もし、この勝手読みが許されるのであるならば、このような作品は、たぶん彼女も現在しか描けないでしょう。このような作品はアタマで考えても出てくるものではないからです。けれど、もし彼女が現在のアンテナを保つことができたならば、また、全然ちがった素敵な作品を描いてくれるに違いありません。私たちはそれを願うしかないのです。だからって、「いつまでも悩んでいろ!」って言ってる訳じゃぁありません。


武美出身だそうですが、多摩美や造形だって似たような環境です。みんなこうして夜道を帰ったんだなぁ。




単にカワイイ作品では感動がないのですが、かといって全ての作家の人生や青春を知る訳でもなし。ホントはいろいろ裏話があるのでしょう。それはともかく、相変わらずの写真で申し訳ない。


今週の一枚:
Sergio Mendes & Brasil ’66 Live At The EXPO’70


梅雨入りしちゃいましたが、先月くらいから天気の良い日は窓を開け放して、ラテン系の曲をよく聴いています。とくにコレ。有名な曲ばかりですが、なかでも私はマシュ・ケ・ナーダが大好きです。カッコイイんだ、これが!
 このアルバムはタイトル通り、’70年の大阪万国博覧会に招待されたセルジオメンデス&ブラジル’66が万国博ホールで演奏した実況録音。日本語で「モウカリマッカ?」と挨拶するセルジオ・メンデスが、おちゃめ。
 私は当時小学2〜3年生だったと思います。カブトムシにしか興味がない子供でした。「20紀少年」でも、夏休みに万博に連れて行ってもらえなかった少年の話がありましたが(話の内容をよく思い出せないけど)、私の記憶の中でも、なぜか万博と夏休みがだぶります。私がカブトムシを追いかけていた頃、こいつらはこんなスゴイ音を出していたんだと思うと、感慨深い訳です。もちろん、前回紹介したコルトレーンなどはもっと昔の録音ですが、「大阪万博」といわれると、突然リアリティーがでてきます。「あぁ、あのとき……」。もっとも、録音日は4月5日ですから、もっと涼しかったのでしょうけれどね。

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  • 第13歩
    ●「相撲は魅せなきゃダメでしょ」木村浩之の相撲展
    ●「ミクロの世界にマクロを見る」末永敏明作品展
    ●「みんなおしゃれになりました」渺渺展

    第12歩
    ●「みんなが自分の仕事をすることの大切さ」東日本大震災チャリティー企画
    ●「スーパーマンは存在する」岩波昭彦展

    第11歩
    ●「明るいだけが写実じゃない」石田淳一油絵展
    ●「ぼよよ〜ん」青木千絵展

    第10歩
    ●まことにあいすいません

    第9歩
    ●「もっと弾けろ!!」渺渺展
    ●「これからの楽しみ」ガロン第一回展

    第8歩
    ●「誰かが気にする仕事」グラマラス
    ●「女性像だけじゃない」山本雄三展
    ●「いつまでもアンテナを磨いておいてね」後出恵個展

    第7歩
    ●「彫刻はライティングが命!」大森暁生展
    ●「老舗の画廊にまかせるの?」小滝雅道展

    第6歩
    ●日本画春の展覧会シーズン
    ●「やっぱ京都でしょ?」西嶋豊彦個展

    第5歩
    ●「住宅街連想あそび」円座
    ●「海が好き!」内山徹日本画展
    ●「寂しがり屋の猫」能島千晴展

    第4歩
    ●「屏風は平面じゃない?」岡村桂三郎展
    ●「母は強し!」藤井美加子日本画展

    第3歩
    ●「まだまだ変わってゆくのかな?」寺久保文宣油絵展
    ●「やったもん勝ち」MetaU

    第2歩
    ●「大人になると落ち着くんだな」菱山裕子展
    ●「カワイイ!って、俺がいってもな……」手の上の渺渺展

    第1歩
    ●「パンクのエネルギーって、これなんだ!」石塚桜子 ポートレート・ビュー
    ●「新宿高島屋チョイスは一味ちがう」波高會
    ●「受賞者の今後の活動に注目します」第45回昭和会展

PROFEEL

金田一好平とは