見て歩き:金田一好平のアートルポ



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金田一好平のアートルポ/第6歩

●日本画春の展覧会シーズン

第36回東京春季創画展(2/24〜3/1)日本橋高島屋
第65回春の院展(3/31〜4/12)日本橋三越
第45回日春展(3/31〜4/5)松屋銀座

 この時期はいわゆる春の展覧会シーズンで、洋画でも白日会展や光風会展、もうちょっと後に国画会展があり、業界の人間はあっちのレセプション、こっちのレセプションとかけずりまわります。とくに春季展は秋に開催される、それぞれの会派の本展への登竜門にもなっていますから、私としては見逃すわけにゆきません。つまり新人発掘です。もっとも、私が業界に入ったころから公募展は一般新聞から無視されるようになりましたので、それを鵜呑みにして公募展に足を運ばない編集者も年々増えていますし、会場で見かける画商さんも大概は毎年決まったメンバーで、あまり目新しさは感じられません。もっと新しい人達にも観てほしいと思うのですが、公募展自体だけでなく、その周辺を含めた全てが縮小してきているようです。
 では、当の公募展側はどうなのでしょうか?あくまでも私の狭い視野の中での感想ですが、こちらもあまり集客に対して貪欲とも思えません。新聞広告や電車の中吊り広告、駅張りのポスターなど、「もっとあってもいいだろうに」と思いますし、案内状だってもっとばんばん発送するべきでしょう。もちろん、広告代やら切手代やらは大変でしょうけれど、観てもらわなければ始まりません。直接収益につながることの少ない団体の計画をまとめることが大変なのは解ります。ましてワガママなひと(ワタシ?)が多い世界ですから、意見をまとめることは容易ではないでしょう。けれども、いまのままでは尻すぼみは避けられません。

 創画会は、近年退会する人気作家が相次いだり、事務所の問題が立て続けに起ったりで元気がありません。作品も、私たちの世代が創画に憧れたような頃の勢いのある作品が少なく、やや小さくまとまってしまった感があります。けれど改めて感じたのですが、日春展や院展よりも、出品作家の名前を知っている比率がべらぼうに高い(あくまでも比率)。これはどういうことかというと、個々の作家は活動が活発だということでしょう。だからこそ、特に一室の出品者(公募展では、イキの良い作家が会場に入ってすぐの部屋に展示されるケースが多い)は、もっとびっくりするような作品を出して欲しい。
 目録データ 搬入点数211点 入選点数132点 会員点数44点(この目録だけ搬入点数となっていますが、会員を含むのかどうかは未確認)

 院展は、先ごろ平山郁夫さんが亡くなり、新理事長は松尾敏男さんとなりました。この新機軸を、私はたいへん期待しています。松尾さんは、「新しい日本画」ということをいつも気にかけている作家で、若手の指導にも熱心です。評価基準も従来と違うところがあるように思えます。ただし、賞の数を減らしたことに対し、不満の声があったことも確かです。皆が納得する作品に賞をだすのはもちろんでしょうけれど、新鮮な作品も拾ってあげないと、松尾さんのいう「新しい日本画」を逃してしまうかもしれません。初入選が昨年の27から44と大幅に増えたことと考え合わせれば、バランスは難しいかもしれません。
 目録データ 応募点数874点 入選点数311点 同人点数33点

 最後は日春展。念のために解説をすれば、日展の日本画部門の春季展です。創画と反対に、知らない作家の比率が一番高い展覧会です。良くも悪くも、地方からの出品者の比率が高いのでしょう。マイナス面は、素人くさい作品も多いところ。プラス面は、びっくりさせるような作品が出てくる可能性が高いところです。実際、勢いのある作品は一番多かったと思います。うまくゆけば、従来創画会が担ってきた部分をまるごと獲れちゃうかもしれません。このへんは、土屋禮一(ホントは字が違う)さんはじめ、牽引役をしてきた作家たちの努力が実った形でしょう。あと、余計なことですが、図録の大きさを変えてほしくなかった!
 目録データ 応募総数817点 入選点数288(内新入選47)点 委員・会員点数133点



会場は観客が多く、とてもじゃないけれどネットに掲載できる状況ではないので、図録だけでごめんなさい。会場撮影の場合はお客様への配慮が大切です。次から「許さん」なんてことにならないように。






●やっぱ京都でしょ?

展覧会名:西嶋豊彦個展
会場:日本橋高島屋
会期:2010年4月14日〜4月20日

 私が東北生まれだから(田舎者だから)なのか、東京でしか仕事をしたことが無いからなのか、「京都」という街に、妙な反応を示してしまいます。だいたい、当時東日本の高校生の修学旅行の定番は京都だったのですが、私が通った学校はなぜか「東北一周」。どうやら私の京都崇拝の根っこはその辺にありそうです。
 そんな訳で、展覧会を観ていても、京都の作家には一定の注意を払います。というか、たぶん「東京の作家には無いものがあるはずだ」と思い込んで観ているのですから、勝手にハードルを上げているだけなのかも知れません。考えてみれば、気の毒なようにも思います。

 現在、京都で活躍している日本画家のなかで、私が気にしている作家の一人が西嶋さんです。うろ覚えですが、京都高島屋で開催していたNEXT展(1998〜2007)という京都作家の大規模なグループ展が日本橋高島屋でも開催されたときが、初めて西嶋さんの作品を観た展覧会だと思います。手元の資料では2002年の第5回展がそれにあたります。
 彼の作品の特徴に光の使い方があります。作品がもっている柔らかなニュアンスの中に置かれた光は、まるで画面で踊っているかのようです。この光そのものが主役となる作品も、たぶん多いと思います。以前ハスに散らばる光の粒(ハスの葉だったと思う)を観たとき、しばらく作品の前で立ち止まっていました。それと関係しているのが、やさしい、柔らかな色使いです。背景と対象の色の絶妙なバランスで対象がふわりと浮きあがって、さらに、光がもう一段浮きあがります。大切なことは、その画面が決して強くないことです。重層的に画面を作れば、どんどんきつい色を使わざるを得ないように思いますが、そんな色は使っていませんし、厚塗りでもありません。画面が叫んでいない。西嶋さんは背景に哲学的な意味合いを考えて、特に注意して制作しているそうです。
 西嶋さんはまた、作品を掛ける生活空間をイメージしながら制作しているとも話していました。展覧会で大作を出品することはもちろん悪いことではないのですが、どうしても、大作ゆえに描く側(特に若い世代)は「人生」とか、「存在」とか、重いテーマを選びがちですし、私がいた美術出版業界の人間も、ついついそんな作品を掲載用に選んでしまいます。けれど、そのような作品はたいがい「強い絵」、つまり色や構図のインパクトが強い作品になりますから、掛けられる場を選ぶことになるでしょう。かといって、一般的に解りやすい作品だけでよいという訳でもありません。両者に納得してもらうことは、至難の業です。自身の反省も含め、いろいろと勉強をした展覧会でした。


薄く微妙な色合いで、会場の光線の加減もあり、とても私の手に負える撮影ではないのですが、敢えて。機会があったらぜひご自分の目で!(すげー無責任)




蚊帳に入ったホタル。表装にまではみだした構図がなんともイイですね。




大作は、樹木のなかの水分をイメージした作品とのことでした。


今週の思い出: 風の孤独 四竈公子展カタログ



 つい先日、4月3日〜6月20日まで長野県東御市にある東御市梅野記念絵画館で開催中の四竃公子(しかま・きみこ)さんの展覧会で準備されたカタログを、四竃さんがわざわざ送ってくれました。実は、私が退職をしたことを知らずに以前の勤め先に送ってくれたものを、以前の同僚が転送してくれました。
 幾度か四竃さんの作品を銀座で観たことがありますが、先ほどの西嶋さんとは逆に、どんどん強い色を使う作家です。けれど、描かれている風景に詩情があるといったら、「あんたにゃ似合わん」と笑われるかな?心が締め付けられるような作品です。それだけ強いのだけれども、この作品も「叫んでいない」のは、たぶん「私が、私が」という作品ではないからなのでしょう。
 カタログは¥1,500で販売しているそうです。気になる方は0268(61)6161東御市梅野記念絵画館へどうぞ。
 もうひとつ、梅野さんって、まだ元気だったんだ……。20年ほど前、京橋で「美術研究・藝林」という画廊を開いていました。原稿を貰いに通った記憶があります。覚えてないだろうなぁ。長野、いこうかな……。

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  • 第13歩
    ●「相撲は魅せなきゃダメでしょ」木村浩之の相撲展
    ●「ミクロの世界にマクロを見る」末永敏明作品展
    ●「みんなおしゃれになりました」渺渺展

    第12歩
    ●「みんなが自分の仕事をすることの大切さ」東日本大震災チャリティー企画
    ●「スーパーマンは存在する」岩波昭彦展

    第11歩
    ●「明るいだけが写実じゃない」石田淳一油絵展
    ●「ぼよよ〜ん」青木千絵展

    第10歩
    ●まことにあいすいません

    第9歩
    ●「もっと弾けろ!!」渺渺展
    ●「これからの楽しみ」ガロン第一回展

    第8歩
    ●「誰かが気にする仕事」グラマラス
    ●「女性像だけじゃない」山本雄三展
    ●「いつまでもアンテナを磨いておいてね」後出恵個展

    第7歩
    ●「彫刻はライティングが命!」大森暁生展
    ●「老舗の画廊にまかせるの?」小滝雅道展

    第6歩
    ●日本画春の展覧会シーズン
    ●「やっぱ京都でしょ?」西嶋豊彦個展

    第5歩
    ●「住宅街連想あそび」円座
    ●「海が好き!」内山徹日本画展
    ●「寂しがり屋の猫」能島千晴展

    第4歩
    ●「屏風は平面じゃない?」岡村桂三郎展
    ●「母は強し!」藤井美加子日本画展

    第3歩
    ●「まだまだ変わってゆくのかな?」寺久保文宣油絵展
    ●「やったもん勝ち」MetaU

    第2歩
    ●「大人になると落ち着くんだな」菱山裕子展
    ●「カワイイ!って、俺がいってもな……」手の上の渺渺展

    第1歩
    ●「パンクのエネルギーって、これなんだ!」石塚桜子 ポートレート・ビュー
    ●「新宿高島屋チョイスは一味ちがう」波高會
    ●「受賞者の今後の活動に注目します」第45回昭和会展

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