見て歩き:金田一好平のアートルポ



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金田一好平のアートルポ/第4歩

●屏風は平面じゃない?

展覧会名:岡村桂三郎展
会場:銀座 コバヤシ画廊
会期:2010年3月8日〜3月27日

 3月8日は、月曜日ということもあって、いろいろな展覧会の初日となりました。そのなかでも、美術ファンの期待がもっとも高かったのは、この岡村桂三郎さんの展覧会だったのではないでしょうか?
 相変わらずのポテンシャルの高さはさすがです。「今回は、基本的に平面で勝負しようと、構図を考えました」との話でしたが、「そもそも日本画の教授でしょ?なんで?」と思う方、多いと思います。岡村さんの近年の作品は、展示スペースの制約もあって、いっぺんに広げることができませんでした。岡村さんはその制約を逆手にとって、鑑賞者がだんだん作品を観てゆくための構図、入り口から出口までいっぺんに観なくても楽しめる構図を心がけていたそうです。ある人の話では、もともと日本美術の中では、屏風や障壁画などは全体を一度に観なくても楽しめるようになっているのだそうです。例えば、屏風は蛇腹のように立てて使うものですから、当然一度に全体を見ることは不可能でしょう。現代では写真に撮って縮小して見ることができますが、そういった道具が存在しない時代には、「いっぺんに見られないのが大前提」であったということです。今回の岡村さんの作品は、そうではなく、「壁に展示することを前提に、一度に観られる構図を意図した」というわけです。
 岡村さんは、ここ10年程の作品を一堂に展観するチャンスを探しているということでした。もし、そんなスペース(とてつもなく広い会場が必要)で、このでかい作品群が集まれば、それはそれは凄まじい展覧会となるでしょう。


怪しげな生物シリーズ(私が勝手にそう呼んでいる)の最新作は、「タコ」(作品のタイトルではありません!)。いままでの作品もそうですが、存在感抜群です。眼ヂカラがはんぱじゃない。蹲る怪物が、また創られたのです。森田画廊のミニアチュール展(3/19〜4/3)に、「蛸」という小品が出品されました。





●母は強し!

展覧会名:藤井美加子日本画展
会場:銀座 ギャラリーミリュウ
会期:2010年3月8日〜3月20日

 もう一か所、気にしなければいけないのが、この展覧会。藤井さんとは、付き合い始めてほぼ20年になるみたいです。今回の作品は、今までとはちょっと違って、不思議な言い方ですが、「絵がひろくなった」感じがします。水をテーマにした作品が多く、モティーフのせいもありますが、たぶん構図の工夫にポイントがあるのだと思います。ハスの配置や棚田の空間に余裕が感じられるのです。「そう?」なんて本人は言っていましたが、もし本人が気付いていないとすれば、息子にだんだん手がかからなくなって、気分的に余裕を取り戻したのかな?もっとも、彼女は昔から貫禄充分(10年以上前だけれど、夜中に電話で呑み屋に呼び出されたことがある)で、最近は近所の子供に「コワイお母さん」で通っているらしいから、筋違いかもしれません。失ったものを取り戻したのではなく、「子供を育てた女性の強さ」を獲得したということですかね?来客の途絶えない会場は、そんな彼女の人間的魅力を現していたのでしょう。話をするのも、間が悪いとしばらく順番待ちになりかねません。作家活動というのは、絵は良くて当たり前で、プラスαがやはり強みになるんですね。


やれ日光だ、広島だと言われていましたが、スケッチは日本中で行ったようです。ハスの葉の位置が味ですね。



藤井さん(右)と、画廊の佐伯さん。佐伯さんは残念ながら、この展覧会が最後の仕事になりました。でも、私と同じで、この業界からは離れられんだろうなぁ。また呑もうね!


今週の一杯:

 3月19日、東京都美術館で芯の疲れる仕事を終えて、観たかった等伯展に行こうと思ったのですが、何せ相手は等伯です。インターバルを入れたくて、文化会館のテラス(私は煙草を喫むので、この場合は外)でコーヒーでも……。と思って入ったら、白人の観光客らしい男性が、うまそうにビールを飲んでいます。いくら暖かくなったとはいえ、陽も弱くなった午後4時近く。花見の客だってまだいやしない。けれど、私の心のどこかに火がつきました。安物のコートで北風に立ち向かう心意気!冷たい風に負けず、テラスで冷たいビールを呑みながらニッコリ笑う心意気!白人男性のすぐそばのテーブルに座り、こちらも一杯。残念ながら、彼とは違って金髪は隣にいないけれど、なに、すぐそこに松林図屏風が待っている。
 ビールと煙草ですっかり元気を取り戻した私は、いざ東京国立博物館へ。交番の角を曲がって、ふくらみかけた桜の下を軽い足取りで……。と、そのとき聞こえたアナウンス。「長谷川等伯展は、入場まで50分待ちとなっております…。」渡りかけた信号をあわてて戻って独り言。「50分?お銚子3本いけるじゃないか!」

 まあ、一時間後は、銀座で仕事をしていましたけどね。いや、ホント。


注文してすぐに撮影すればよかったのですが、呑んじゃいました。

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    ●「相撲は魅せなきゃダメでしょ」木村浩之の相撲展
    ●「ミクロの世界にマクロを見る」末永敏明作品展
    ●「みんなおしゃれになりました」渺渺展

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    ●「みんなが自分の仕事をすることの大切さ」東日本大震災チャリティー企画
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    ●「女性像だけじゃない」山本雄三展
    ●「いつまでもアンテナを磨いておいてね」後出恵個展

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    ●「彫刻はライティングが命!」大森暁生展
    ●「老舗の画廊にまかせるの?」小滝雅道展

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    ●日本画春の展覧会シーズン
    ●「やっぱ京都でしょ?」西嶋豊彦個展

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    ●「住宅街連想あそび」円座
    ●「海が好き!」内山徹日本画展
    ●「寂しがり屋の猫」能島千晴展

    第4歩
    ●「屏風は平面じゃない?」岡村桂三郎展
    ●「母は強し!」藤井美加子日本画展

    第3歩
    ●「まだまだ変わってゆくのかな?」寺久保文宣油絵展
    ●「やったもん勝ち」MetaU

    第2歩
    ●「大人になると落ち着くんだな」菱山裕子展
    ●「カワイイ!って、俺がいってもな……」手の上の渺渺展

    第1歩
    ●「パンクのエネルギーって、これなんだ!」石塚桜子 ポートレート・ビュー
    ●「新宿高島屋チョイスは一味ちがう」波高會
    ●「受賞者の今後の活動に注目します」第45回昭和会展

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