見て歩き:金田一好平のアートルポ



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金田一好平のアートルポ/第3歩

●まだまだ変わってゆくのかな?

展覧会名:寺久保文宣油絵展
会場:日本橋三越本店美術特選画廊
会期:2010年2月10日〜2月16日

 16日、前日まで雨を嫌ってグズグズしていたけれども、今日は最終日なのでそうもいえずに銀座へでる。天気予報は夜から雪。展覧会最終日には、デパートの場合たいてい4時に終わってしまうので、はやめに動かないと、みている端から片付けられたりしかねません。
 寺久保さんは、白日会で活躍を続けながら日展でも会員になった、出世頭のひとり。ほぼ同じ世代では丸山勉さんが少し先輩。もう少し上だと湯山俊久さんが日展評議で、お兄さん格(ほんと、面倒見の良い人で、白日会の事務局まで引き受けた)。ふつうここまできたら、あとは無難に展覧会の実績を積んでゆくのかとも思うけれども、今回の展覧会はそれだけではない、チャレンジ精神旺盛な展覧会でした。
 寺久保さんといえば、たいがい「花」をイメージすると思うし、完成度もあると思う。温かみのある配色とゆったりした構図は彼の人柄を想わせるけれど、そんなの’64年生まれの作家の作品に書く文章じゃないだろう。それだけ彼の作品には落ち着きがあるのだけれど、そこに執着しなかった今回の展覧会を評価したいのです。しかも会場は日本橋三越。数字を考えれば、チャレンジの余裕なんてそんなには、と思っていたのに、敢えて人物を要所に持ってきて、ほかにも今まで見たことのない、のんびりとした海景の小品まで並んでいるのを観たら、嬉しくなりました。人物の大作は昨年の白日会出品作ですが、これがまた、「こんなのが描きたかったんだろうなぁ」と想わせる作品。ロック小僧がパープルやツェッペリンに憧れたように、油絵描きにはやはり憧れがあるんだな。



メインと花はこんな感じ。




これは新作の人物。この作品にも「憧れ」が滲んでますね。




このようなゆったり感は、鍛えたり悩んだりしたって出てくるものでもないんだろうな。 今年の白日会までの会期(3月17日〜国立新美術館)を考えればほぼひと月。 出品作はどうなってるんだ?






●やったもん勝ち

展覧会名:MetaU
会場:神奈川県民ホールギャラリー
会期:2010年2月16日〜2月28日

 久しぶりに心底楽しめました。やっぱり、パワーっていいもんです。はじめに沿革を紹介すると、もともと日本橋丸善で開催していたMeta展が、メンバーの若返り、スペースの広さの問題、会場そのものの建て直しなど、いろいろな要件が重なって2005年にこの会場で開催となったもの。今回のメンバーは市川裕司、岡村桂三郎、梶岡俊幸、金子富之、斉藤典彦、酒井祐二、佐藤裕一郎、竹内啓、長沢明、樋口広一郎、峰岡正裕、山本直彰、吉田有紀。市川、佐藤、峰岡はたしか30歳くらい。丸善の当時は’35年生まれの村松秀太郎さんもいたから、まさに「世代は変わった」わけです。
 会場に入る前から、半地下から顔を出しているやたらとでかいやつが気になりますが、我慢しながら順路通りに大人しく見ると、佐藤君の長い長い作品がお出迎えしてくれます。入り口でもらった出品リストをみると1638p。これでびっくりするんだ。フツーは。けれど、階段を降りるために後ろを観ると、もう我慢できない。「なに、これ?」。
 想像はついていたけれど、市川君の新作だ。大きけりゃいいわけじゃないけれど、「ばかだな〜」って、ほんとに自然と顔が弛みました。50mの透明なフィルム4本にアルミ箔をびっしり貼りつけたものを、天井からぶら下げているのです。もちろん天井と床の間にそんな高さはありませんから、山の左右にそれぞれ巻いたフィルムが残っており、これがなかなか味な余韻をもっています。
 まぁ、想像してみてくださいよ。彼がこの合計200mのフィルムに延々とアルミ箔(一枚はA6くらいかな?)を貼っている姿。所要時間は訊かなかったけれど、ちょっとやそっとの時間じゃないはず。30歳の彼がこの作業に費やした時間、あいまには当然飯も食うしひょっとしたら(?)恋もするでしょう。「修業僧のように(本人談)」アルミ箔を貼りながら、「腹減ったなぁ」とか、「ちぇ」とか考えてたのかな〜。そんな時間とこんな時間がダブルイメージになって、若きアーティストの切ない生活を想わせるのでした。 岡村さんの作品は渋くていい感じですし、斉藤さんも久しぶりに観る大作だけれども、やっぱり市川君の「やったもん勝ち」。こういう作品は物理的に体力が必要だから、今のうちしかできないだろうし、やっておくべきでしょう。なによりも、この展示を観たもっと若い作家は、「やってみたい」と思うでしょう。大勢のファンがいるこの展覧会の魅力は、まさにそこにあるわけです。



入り口付近から。手前のテントみたいな作品が市川君の作品。階段下にいる人物と比べると、大きさがお解りいただけると思う。立体的な作品は平面的作品より訴求力が強いぶん、へたな作品だと目も当てられなくなる。しかもこの大きさ。しつこい?




入り口にある佐藤君の作品。引くことができず、私のカメラでは収まりきれません。3月4日からの川口市立アートギャラリー・アトリア「川口の新鋭作家展」で観ることができます。




奥の小部屋に展示スペースがあった吉田さんの作品。個々の作品は、どの作家もレベルが高いのです。



今週の一枚: Coltrane live at Birdland  John Coltrane


 先日、渋谷の東急デパートの画廊である展覧会を観ていたら、「アレ?このメロディーは……。」コルトレーンだ。ちがうアーティストの演奏だけれども、間違いなく「アフロ・ブルー」。デパートの店内放送だから画廊の人は曲を選びようもないけれど、デパートでコルトレーンを聴くとは思わなかった。コルトレーンの持つ緊張感って、もう現代では通用しないのだろうか?それとも東急渋谷本店の担当者がジャズフリークなのか?
 ということで、久しぶりにひっぱりだしたこのレコードは、学生時代に一生懸命集めたうちの一枚です。コルトレーンについての詳しいことは他のページで調べがつくと思いますが、このころのコルトレーンはまだアバンギャルドになっていません。でも、そのなかでもがくコルトレーンがたまらない。ここまできたら自然とそっちにいっちゃうだろうな、という時代。マッコイタイナーのソロの後にとんでもないテンションで高音から切り込んでくるコルトレーンがかっこいい。1963年録音。
 東急で聴いた演奏も、なかなか緊張感があって好かったんだけどなぁ。ネットで調べたらそれっぽいのがあったけど、確認したわけではないので黙ってましょう。

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    ●「まだまだ変わってゆくのかな?」寺久保文宣油絵展
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