薮内佐斗司、舟越桂以来、彫刻、特に乾漆や木彫にもファンが増えましたが、これは、それまでの日展裸婦的な彫刻(口の悪い人は日展の彫刻展示室の様子を「大衆浴場」などといっていました)や、ステンレスなどを多用した抽象彫刻が、一般の皆さんにはとっつき辛いものだったということが、大きな要因であったと思います。この流れは一気に村上隆のフィギュアまでいっちゃったようにも見えますが、もちろん他にも沢山のすぐれた作家が世に出るきっかけにもなりました。今回の大森暁生君もそのひとり。新宿島屋では、たしか二度目になります。
いままでの発表は、おもに画商さんからのものでしたから、作品も大きなものがどんどん置いてあるという感じではなく、小さなものから中くらいのものを、ごく丁寧に作りあげるのが得意な作家だと、私は感じています。作品の持っている迫力や、思わず見とれる作り込みは、彫刻は大きければよい訳ではないことを示しています。
それと、彼の発表会場にゆくと、必ず会場の雰囲気作りに感心してしまいます。彫刻は立体であるがゆえに、平面作品以上にライティングに重要度があります。ためしに、彫刻専門のカメラマンと、そうでないカメラマンとの写真を比べてみれば判ると思いますが、ライティングによって表情がまるきり違ってしまいます(ちなみに、大森君を撮影しているのは遠藤桂さんというカメラマン。以前から彫刻の撮影では有名ですが、残念ながら私は一緒に仕事をしたことがない。また、有名なカメラマンにレトリアの高瀬さんという方がおられましたが、最近どうしておられるでしょう)。会場で作品を観るのも同じで、演出の上手い、下手はとてもよく判ります。というか、下手なライティングの下では、作品の見せ場が無くなってしまいかねません。これは、作家が「もっと強く」とか、「弱く」とか、あーでもない、こうでもないと、会場側とのかなり長時間の調整が必要でしょう。私が、もしそれをやらなくちゃいけないとなったら、かなり「ブルー」です。
大きければよい訳ではないと書いたものの、結構でかい?
「素人カメラマンまたも下手を打つ」だな〜。こういう写真、やっぱりプロは違うんです。
真ん中の狼以外は、写り込みです。鏡ではなく、ステンレス。ステンレスに傷がつかないように、作業にはえらく気を使うそうです。
私が一番時間をかけて観たのはこれ。素描じゃないんですよ。設計図が展示してあるのって、初めて。おもしれ〜!
●老舗の画廊にまかせるの?
展覧会名:小滝雅道展Neither a point nor a line
会場:日本橋・春風洞画廊
会期:2010年4月30日〜5月2日
展覧会期日からもお判りかと思いますが、「京橋美術骨董まつり」の参加展覧会。私は参加しませんでしたが、小滝さんによるワークショップも開催されたそうです。こう書くと、別段変ったことは無いようですが、私には大アリです。あの春風洞が、小滝雅道の展覧会で、しかもワークショップ!ですよ。小滝さんは私よりも一つ年上で、ずっと文字みたいな線をモティーフにした作品を制作しています。微妙な言い回しですが、作品のタイトルが「点でもない線でもない」というシリーズでしたし、文字に見える線に言葉としての意味は持たせていないそうですから、こうでもいうより仕方がない。以前からファンは多い作家だと思いますし、私も彼の着眼点やアイディア、なによりもスタイルを貫く姿勢が好きです。そして、そんな作家ですから、発表はどちらかというと、現代美術とか、コンテンポラリーと呼ばれる作品を手掛ける画廊での発表がほとんどでした。それが、久しぶりに展覧会だと思ったら、春風洞。ここは、数ある画廊の中でも指折りの老舗。中山忠彦や森本草介、上村淳之や下田義寛といった面々が当たり前のように掛っている画廊。そこでワークショップやっちゃう?春風洞で素人が絵を描いちゃうの?企画した春風洞の中村さんはほぼ我々と同年代ですが、よくまあ、企画が通ったと思います。ホント。許可したほうも、キモがでかい。
中村さんの「何でもやってみましょう」には敬意を表しつつ、新しい美術ファンを増やす努力をこんな老舗に頼るのもどんなもんでしょう?ワークショップなら参加店共催でどこか借りるとか、思い切って屋外でなにか「やらかす」とか、とにかく、ここまでしてくれた老舗に対して、恩返しというほどではないにしろ、他店は意地を見せてほしいものです。美術ファンとして、願わくは、いつまでもコワイ春風洞であって欲しいように思うのです。
今回の新作は、線の形よりも全体の雰囲気に気を配った作品のように思われます。これは初めて背景をキンキラキンにした作品。おもわずボ〜っと観ていたら、中村さんに「ヒカリモノが好きなんですね!」って、冷やかされました。
初めての方には、たぶんこれが解りやすいかな?
写真を撮り忘れましたが、小滝さんはイケメンでも有名です。受付の橋本さんによれば、「写真よりステキ」だそうです。(だから撮らなかったって訳じゃないですよ!)
今週の一日: 何でもない日バンザイ
ゴールデンウィークの中頃、「銀座の画廊は休みだし、お金はないし、娘も奥さんもどっかに出かけたし……。」お昼くらいから、ビールを呑みだしました。500mlのロング缶が空き、さて……。これがロサンゼルスの離婚問題を扱わない探偵だったらデスクの引き出しからバカルディでも出すのでしょうが、調布のへっぽこ美術探偵の台所の流しの下には高清水しかありませんでした(しかも、あまり残っていない)。
アリス・イン・ワンダーランドにでてくる「不思議なお茶会」って、あれは子供向けだからお茶会なだけで、素直に考えれば、「呑み会」だよね。「呑み助」はいろいろな口実をつくっては酒にありつこうとする訳です。やれ、「久しぶり」、「今日の仕事の反省会」、「めでたい」、「つらい」、「暑い」、「寒い」etc. しまいには、理由をつけるのが面倒になります。ところが、このフレーズがあると、非常に便利です。店主「きんさん、今日はどうしたの?」。私「今日は私の何でもない日!」。理由がなくちゃ呑めないなんて女々しいことだと、作者は教えてくれているのです……。ウソです。