展覧会名:海の記憶2010 内山徹 日本画展
会場:横浜 ヨコハマ・クリエイティブシティ・センター
会期:2010年3月26日〜3月28日
私は正直なところ、あまり横浜には出掛けたくない。呑み屋で酒を呑みながら煙草を喫めないようにしようと考えている街などに、誰がすき好んで出掛けるものか。もっとも、施行前でしたから、ゆっくりと楽しみましたけどね。
ここ10年ほど続けてきた海のシリーズを一度まとめてみるのが、今回の目的だったそうです。いわれてみれば懐かしい作品がある、ある。
海の作品と一言でいっても、内山君本人の興味が、いわゆる日本画の方法、様式を用いた作品から、印象的作品や抽象的作品へと移行してゆく過程がよく解る作品群でした。近作は染料を実験的に使った作品で、かなり抽象的な作品です。なぜここまで海にこだわるのか。または、表現方法を変えなければならなかったのか?答えは、会場の一角にありました。
私が一番興味を持ったのは、多数のスケッチです。なかにはイタリアなど海外でのものもありましたが、ほとんどは鎌倉や横浜など彼の生活圏内で描かれたものです。このスケッチ群を観ていると、つくづく、彼は海が好きなのだということを得心できます。スケッチの中の松を揺らす風や、漁船の船縁に光る波の音が聴こえてきそうなほどです。本人も、スケッチした時の寒さや、波の色をいちいち覚えていると話していました。これは、決してテクニックではないのです。仮に細密描写の達人であったとしても、対象を愛している作家の作品でなければ、風の音を聴いたり、陽の暖かさを感じることは出来ないものです。彼が愛する風景だからこそ、聴こえてくるものであり、言ってみれば愛ゆえのスケッチ。その昇華がメインの作品群といえそうです。そして、スケッチをしながら、「お!あの波の色は…」などと考え、悩み、試行錯誤を重ね、現在の作品になってくる……。と考えれば、表現方法の変化も納得できます。
どんな展覧会を観ても思うことですが、やはり作家自身が対象に感動していなければ、観る側も面白くは感じないものです。音楽も同じでしょう。プレイヤーがつまらないと思っている演奏に対して聴衆が面白いと思うかどうか、私は非常に懐疑的です。地方などで「御当地ソング」を演奏したりしてウケたりすると、「もっと頑張ろう」と思ったりすることはあるものですが、それはやはり例外というか、状況が特殊なのでしょう。
もっとも、美術にしろ音楽にしろ、そもそも受け取る側にゆとりがあるかどうかがもっと重要なのですが、喫煙も飲酒も許さない、自分のスタイル以外を認めないような社会に、そんなゆとりがあるとは思えないのです。
右奥に見えているのが、今回出品した作品中、一番古い。10年ほど前、銀座の森田画廊で発表したもの。(写真提供 内山徹)
正面が、近年彼が続けていたシリーズで、左側に見えているのが新作(写真提供 内山徹)
●寂しがり屋の猫
展覧会名:能島千晴展catmix7♡cocktail P
会場:銀座 ボザール・ミュー
会期:2010年3月29日〜4月3日
ここ十数年、女性日本画家が耳目を集めていましたが、最近は少々落ち着いたようです。彼女たちが話題になった理由として、それまでの日本画に比べ、テーマの選びかた(モティーフの選びかた)が、非常に「女の子」的だったり、色彩が驚くほどカラフルだったりと様々ですが、要は「あっけらかん」とした明るい作品が、業界の同世代たちにウケたわけです。けれど、能島さんの作品からは、そういった明るさは感じられません。彼女の作品には、独りで綾取りをして遊んでいる小さな女の子の寂しさがあります。
猫にしろ犬にしろ、よく、「飼い主に似る」といいますが、彼女の作品を観ていると、その傾向がやはりあるようです。ただし、私が知っているのは彼女の飼い猫ではなく、作品の中の猫ですが。今回はキャラクター的な作品が約2/3。他が日本画的作品なのですが、その作品からは、キャラクターのような気安さは感じられません。むしろ、不安とか、寂しさを感じさせる猫たちです。少し感傷的にすぎるかもしれませんが、広い世界でよる術を探しながら寒さに震えている子猫です。
ずいぶん昔になりますが、音響設備を画廊に持ち込んで会場をクラブのように設定した発表がありました。その後、銀座の柴田悦子画廊での発表の時、彼女はベットに腰掛けた自らの足を描いたことがありました。ここ数年は、会場の関係(ボザール・ミューは、猫専門画廊)もあって、このような作品に落ち着いています。今思うと、これらはすべて繋がっていたのでしょう。寂しさの反動が表れる音響設備や、独りを確認しなければならなかった自らの足。今、彼女は自らを子猫に託しているように見えます。彼女の作品の構図というか、描かれるアングルを私はとても魅力的に感じているのですが、同時に自らの世界からもっと出てきて欲しいとも願っています。
今回は、そもそもこのようなお目出度い作品がメイン。ダルマのほか、七福神なども。
作品点数こそ少なかったけれど、飼い猫の作品。近年、猫は彼女にとって重要なモデル。
今週のフォトジェニー: 山田まほさん
日春展レセプション後の、2次会会場にて。いつも40人くらいは集まる呑み会です。彼女が、武蔵美の仲間と一緒に呑んでたところを一枚。2〜3年に一度、銀座の藤屋画廊で個展を開催しています。いまでも美人ですが、やはり歳月というものは……。ははは、ゴメンゴメン。